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米国法律事務所を知る (Understanding U.S. Law Firms)
Jan 22, 2016
ハワイで起業を考えている皆さまにとって重要な初めのステップは、信頼できる現地のプロフェッショナルを見つけることではないでしょうか。日本同様、起業家としてプロフェッショナル選びには十分に時間をかけ、慎重に見極める必要があります。
経費削減のため弁護士や他のプロフェッショナルを利用しない方もいます。しかし、訴訟社会の米国で問題が発生してからプロフェッショナルに相談された場合、当初起業の相談と比べて何倍もの費用がかかってしまう可能性があります。さらに計画の遅延と精神的な負担も増すことにもなりかねません。米国では弁護士やその他のプロフェッショナルに初期段階で相談をすることは当たり前であると考えられています。米国での起業手続きは日本と異なる点も多く、現地のプロフェッショナルにご相談することをお勧めいたします。
今回はハワイ州の法律事務所や弁護士について簡単に紹介いたします。
事務所規模
ハワイの法律事務所の規模は大きく3種類に分けられます:大規模(弁護士40人以上)、中規模(弁護士40-10人)、小規模(個人事務所を含む10人以下)。ハワイには大規模事務所が5つあり、フルサービスの事務所として他分野の法律問題に対応可能です。例えば、ホテルやゴルフ場を購入する場合、かなりの専門レベルで不動産法、環境法、会社法、労働法、知的財産法、訴訟などの分野に対応することができます。小規模事務所ではこのような大型案件を扱うことはまず不可能であるとお考えください。
中規模事務所も作業方法は大規模事務所とよく似ていますが、弁護士の数が少ないことにより対応可能な案件に制限がでてきます。中規模事務所の費用請求はおそらく大規模事務所とそれほど変わらないでしょう。
小規模や個人事務所は通常広く浅く業務を行うことが多く、一般的に内容がそれほど複雑ではない案件を対象としています。しかし、例外として相続法や移民法は非常に特化された分野であるため、個人事務所でもある特定の分野を専門としている弁護士もいます。
事務所形態
法律事務所の基本形態は事務所の経営権を持つパートナー(Partner)、雇用されている弁護士であるアソシエイト(Associate)とオフカウンセル(Of Counsel)、そしてその他事務スタッフで構成されています。アソシエイトとオフカウンセルの主な違いは経験年数で、オフカウンセルは経験年数が多いにもかかわらず、何らかの理由でパートナーになれない、またはなりたくない弁護士がその大半を占めています。例えば、経験豊富な中途採用の弁護士や退職を念頭に入れたパートナーが仕事量を減らしたいときにオフカウンセルとなる場合があります。
ハワイでは通常6年から8年間アソシエイトとして経験を積んだ後、パートナーへの昇格を既存のパートナーらが検討します。オフカウンセルがパートナーになることもあります。
一般的にアソシエイトやオフカウンセルは一時間あたりの請求額がパートナーと比べて低いため、アソシエイトやオフカウンセルが作業を行いパートナーがその内容を最終確認することによりお客様への費用削減につながります。もちろん作業内容が複雑であればパートナー自身がすべての作業を行うこともあります。請求制度については以下に説明させていただきます。
専門
弁護士の専門は大きく訴訟(Litigation)と取引(Transaction)の二つに分けられます。そこからさらに特化された分野を専門とする弁護士も多くいます。例えば「取引」の中でも知的財産法、会社法や不動産法などがあり、さらに不動産取引法の中でも開発、リース契約、コンドミニアム、ファイナンシングなどと細かく分かれています。大規模事務所では特に専門分野の特化が目立ちます。小規模事務所では多くの作業に少人数で対応する必要があるため、それほど複雑ではない案件であれば訴訟と取引の両方を扱う弁護士もいます。日本では事務所の規模に関わらず、多くの弁護士が訴訟と取引の両方を扱うことがあると理解しています。
請求制度
弁護士を雇うことを検討されている方にとって重要となるのが請求制度です。請求には三つの基本的な方法があります : (1)時間制 (2)一律 (3)成功報酬。成功報酬は人身障害に関連した損害賠償請求を目的とする訴訟に利用されます。この記事ではハワイでの起業がメインとなるので取引案件に関連する費用形態について説明します。
取引関連の案件では時間制の請求が一般的で、多少異なりますが1時間を10分割し実質的に6分単位で費用が請求されます。例えば7分間の電話相談をした場合、繰上げで請求時間は「.2」(一時間の10分の2)とされ、1時間の請求レートが250ドルであった場合、お客様への実際の請求金額は50ドルとなります。現在ハワイの1時間あたりの請求レート市場はおそらく140ドル (一年目アソシエイト) から500ドル(ベテランパートナー)位ではないかと思います。弁護士やスタッフの多い事務所であれば、作業の難易度により経験年数の多い弁護士、アソシエイト、補佐などを効率よく使い分け費用削減を考慮しながら業務行います。
時間請求をする弁護士が費用の見積もりをする際、過去の似たような案件を元に大体の金額を出すことはできますが、費用の上限や固定請求のお約束ができないのが現状です。当初表面的にはシンプルに見える案件も、ふたを開けてみると意外と複雑であったりすることが多々あります。この場合、定期的に請求金額や見積もりの見直しを要請することが良いかと思います。
最近では法人設立やビザ申請を一律の費用で行う弁護士も増えています。単純な案件であれば一律費用の弁護士に依頼することに特に問題はありません。しかし、実際にベルトコンベア式ではない案件をそのように扱ってしまった場合、将来的に問題が生じてしまう可能性もあり、最終的にその対応に時間のロスと追加費用が発生してしまうこともあります。
ビザ申請が一番わかりやすい例ではないでしょうか。ビザの申請を一律費用で行う弁護士は多くいます。ここで重要となるのが一律の費用がどこまでの作業を含むかということです。一般的に、一律費用は当初の申請書の提出までを含み、移民局から追加資料の要請(Request for Evidence通称「RFE」)などがあった場合、それに対応する作業は時間請求となる場合があります。最近では就業ビザの申請の場合、非常に高い確率でRFEが発生しています。全ての作業を時間請求で行う弁護士は、当初の申請書作成からしっかりと時間をかけ、可能な限り追加資料の要請を避けられるように努力する場合もあるため、結果的に時間短縮と費用削減につながることも十分に考えられます。
依頼への流れ
弁護士への依頼を決断された後から作業開始までの流れを簡単に説明します。弁護士は倫理規則に基づき、新しいお客様の案件が既存のお客様と利害対立関係にある場合、新案件をお断りする義務があります。そのため、弁護士はまずこの利害対立関係の有無の調査 (Conflict of Interest Check) を行います。この作業が1時間で完了することもあれば、当事者の多い案件であれば1日かかる場合もあります。もし、利害対立関係がなければ依頼契約書の締結が可能となり、初めてお客様との依頼人関係が成立します。依頼の内容に基づき一定額の着手金 (Retainer)を求められることが一般的で、その後発生する弁護士費用に充てられます。
最後に
弁護士を選ぶ際、案件の内容や規模をしっかりと理解できる弁護士やそれに対応できる事務所を見つけることが重要です。例えばハワイで飲食店を開業する際、法人設立だけではなく、リース内容の確認、酒類ライセンス申請やビザ申請などを全て一括して行える事務所を利用することが時間と費用削減につながります。さらに、言語が問題である場合は実際に弁護士と面談し、日本語が流暢であるかを確かめることも重要です。通常このような面談で費用は発生しません。依頼者としてしっかりと調査を行い、自分に合う弁護士を見つけることがその後のハワイプロジェクトの成功につながります。
注意:コラムの内容は一般情報であり法的アドバイスではない事をご了承願います。法律のアドバイスをお求めの方は個人的に弁護士とご相談ください。